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「シリアと周辺国の衣装」

2021年4月1日 - 7月10日

シリアと周辺国の衣装

  シリアを横断するメソポタミア文明を育んだユーフラテス川流域は、数々の古代文明が築かれました。その遺跡群が象徴するように古くから東西交通の要衝として栄え、染織の往来が盛んに行われていました。現在でも知られる「ダマスク織」の名から、その長い歴史と巧みな技術がうかがえます。

 北にトルコ、東にイラク、南にヨルダン、南西側にレバノン、イスラエルとパレスチナ自治区、更に西部は地中海に面した国、シリア。この周辺国を含む西アジアの地域一帯は、砂漠や草原、高原、丘陵からなる極めて乾燥した気候です。この気候風土が文化の基層となって、人口の大多数を占めるイスラーム教徒の民族性とともに独自の染織品が作られました。

 しかし、残念ながら2011年より長らく紛争下にあるシリアを取り巻く状況は、21世紀最大の人道危機ともいわれています。未だ出口の見えない戦禍の現実からは、これらの美しい手仕事を想起することすら難しい状況です。それでも、今展に並べられる染織品は、彼の地の人々が大地と共に暮らし、脈々と受け継いできた証です。手仕事の持つ普遍性に平和の願いを込めて。

アフガニスタンで古代ガラスを初めて見た時から、シリアという国は私にとって憧れの国でしかなかった。二〇〇〇年八月、その想いを胸に訪れたが、描いていたシリアという響きと現実はかけ離れていた。しかし、古代より受け継がれたきた手仕事は細々と生き残り、現場を垣間見ることができた。

 国の豊かさということよりも、地味な生活の中で人々が築き上げた文化を見ていると、そういう中にも心惹かれるものがあり、染織品の背後には何時も大きな力を感じた。

 岩立広子