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「白のテキスタイル」
2011年6月30日 - 10月1日

 インドは木綿の原産国ですが、数千年前の歴史を経た今日も白木綿の美しさと着心地の良さは定評があります。かつてギリシャ ローマの貴族が纏ったローブもガンダーラの佛像に刻まれた流れる様な襞もその歴史を実証するものです。インドを訪れたヨーロッパの交易商はこの白布や更紗等に魅せられ、夢中で取引しますが産業革命が起り、類似品の量産に成功すると逆にその品をインドに売りつける様になりました。職を失った織職人の白骨が、大地を覆った...と云われる程の悲劇が起り、かつて富をもたらしていた布がインドを貧困に追い込みました。イギリスの不当な弾圧の中で、インドの自治を目指したガンディは獄中でも紡ぎ車を回し、自分の手で織った白布を腰に巻き、民衆の先頭に立ちました。一枚の手織の白布が独立を勝ち取るシンボルになったのです。
 戦後は、いち早く手工芸の復活に力を入れ、かつて空気の織物と呼ばれたダッカ(旧ベンガル、現バングラデシュ)のモスリンには及びませんが、再び素晴らしい木綿の産出国になりました。今回はムガール時代のマハラージャや貴族が愛用した、薄いモスリンのターバン(巾80cm、長さ14.5m、重さ200g)や白の花織り、ジャムダニのサリーとベール、透ける刺繍の衣装等、見て頂きます。
 旧ベンガル地方では優れた木綿の産地の為、使い古しの白布を集め、重ねて刺子をし、吉祥文で飾ったカンタが婚礼の敷物、また赤ちゃんのお包みに使われました。家から外に出る事のなかった女性達の唯一の楽しみでありながら、創造性豊かな手仕事で同じものは二枚とありません。今回も大きな魚や鳥達が画面から溢れる、布を紹介します。
 インドの西のイスラーム圏の国々では、白木綿は刺繍を施し、花嫁の衣装や夏用のベール、タオル、ルーマル(ハンカチ)に使われました。水の乏しい所では、白は普段着に使えず、贅沢なものでした。トルクメン族の老婦人は予言者ムハマンドの没した年齢(63歳)を越えると、白地の絹のチルピィ(被衣)の着用を許されると聞きました。白は、気品と長寿への敬意が込められています。
トルコの緯糸に強撚糸を入れた楊柳(ちぢみ)のシュミーズ:ギョムレク(女性用下着)は布の伸縮性を利用した袖のカットが新鮮です。東欧のルーマニアの農民の厚地白木綿の刺繍も愛らしいです。その他、ミャンマー、インレー湖畔の蓮の繊維で織られた奉納用の麻の様な感触のショール等、様々の白を楽しんで下さい。