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「高地に暮らす人々の毛織物 - 中国(イ族)、チベット、ブータン、インド北部」
2017年8月3日 -11月11日

チベットからのメッセージ(贈物)

表紙の十字文絞りは、故多田等観師がチベットに滞在中(1913−1923年)厳寒のラサで起居を共にした毛布である。この毛布は当人の「没後50年 多田等観展」が岩手の花巻市立博物館で開催される前年に、奇しくも御自宅で発見され、息女の千枝子さんより当館に寄贈された。一枚はラック染めの燕脂、もう一枚は藍染で、いずれも十字文絞りの入った毛布である。欲しい欲しいと思っていたチベットの絞りがこんな形で館のものになるとは夢にも思わなかった。今更乍ら、この御縁に導かれたことは身に余ることであった。チベット学の権威であり乍ら、そう云う振る舞いは一切なく、人を面白がらせることが得意で、私が東洋文庫(古い木造建築)にお訪ねした時も、アジアの染織を見に行きたいなら何と言ってもインドだよ、カルカッタの街の映画館には赤い絨毯が敷きつめられていて、数千年の歴史のある国だと即座に仰られ、小さな木版染めの小裂をくださった。私にとっては書物からの情報より、実際にその地を見聞した人のコメントは、何より心強いものだった。私がインドに出発する3年前に他界され、私がインドをライフワークにしたことは御存知無いまま今日に至ったのだが、偶然にもこの毛布と僧衣が多田家から発見され、千枝子さんがすぐに、この絞りは広子さんの美術館にと申し出てくださり、胸がドキドキした。歴史上の人物である等観師が現地で使用していた100年前の布が、この小さな美術館に舞い降りてきたのだ。何かこれも、等観師の人を驚かせたいユーモアの一つかもしれないが運命的なものを感じた。偶然の贈物はこの美術館を目指してきてくれたのだろうと思う。今回はこの毛布を中心に類似の十字文絞りの衣装や馬の背飾り、中国北西部イ族のテントのような分厚い防寒着、ブータン中央高原の毛織物、遊牧民のダクパ(インドではモンパ、中国ではメンパ)のヤクや羊のフェルトの衣装や帽子を紹介する。普段注目を浴びない僻地で営々と受け継がれて来た高地の毛織物を展示します。

岩立 広子