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「インド 木版更紗 - 村々で出会った文様の原形」

2018年4月5日 - 7月14日

 初めてのインドで、私を捕らえたのは村の人々の普段使いの木版更紗だった。日本の完璧な技法しか見た事のない私には、衝撃的な仕事ぶりだった。糊付され、地面におろされた布の上を動物が歩いたり、人が踏んだりも平気で、誰も気にも留めずに仕事を続ける。大胆不敵。地染めも四人の女が四隅を持って立っていて、バケツに入れた染料にボロ布を浸け、一気に色をぬる。女たちは陽焼けを恐れ、サリーの端で、すっぽり顔を隠している。出来上がった布は、どれも版がずれたり濃淡があったりするが却って、単純な柄を活き活きと見せる。ジャイプルからバグルーを通ってキッシャンガール、途中のジャイランプーラ、そしてアコラへ。道々、同じ柄のスカートが増えていくのも楽しい。ジョードプルからパリへ、その下町の路上で染布を広げていた、白い回教帽の腰の曲がった職人は、私が夢中で見つめる布を見て、「それはドロボーのカーストが使う柄」、何の事かとしばし考えたが、ジプシーの様な人たちではないか、壷作りの女たち、農業をする人、職業によって違うらしい。布も文様も、粗いけど、シンプルで時にユーモラス、おじいさんの熱心な弁舌にすっかり聞き入ったが、最後に寄った時は店仕舞い寸前だった。ジョードプルの城下町の中の排水溝で布を洗っていたり、パキスタンとの国境に近いバルメルでも汚れた溜め池で一斉に洗って、土手に乾かしていた。汚れた水もその為に堅牢度が増すと云う、いい加減な噂もあったが、信ずるものは救われんである。今回は、集まった布を出来るだけ沢山見て頂きたいと思う。久々のインドの村々の更紗展である。

 表紙の、貧しいカーストの人々の間で使われた、女神崇拝の儀礼の染布は、アーメダバード周辺で今でも作られている。重なり合った山々は、恐らく聖山のカイラース山でその頂上の寺院に座す、凛々しい女神をたたえ、黒山羊と楽隊、そして花を持った女性たちが幾重にも囲んでいる図で、手描きのアウトラインを引き、版で色付けされた魅力のある絵で、寺院を持てない貧しいハリジャンの人たちに使われ、愛された布だ。

岩立 広子