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「キリム - アフガニスタンの普段使いの敷物」

2018年11月29日 - 2019年3月16日

 インド通いが始まって数年たった1977年、更に西に未知の遊牧民の世界があることを知り、アフガニスタンの最小限の情報を掴み、酷暑のデリーからアリアナ航空に乗り、首都のカーブルに着いた。澄んだ空気と雪山に囲まれ、青いタイルの尖塔を持つモスクを中心に広がる首都は、息をのむ神秘に満ちていた。アフガニスタンの北側には、既に旧ソ連邦に組み込まれた中央アジアの5つの国、トルクメニスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、キルギスタン、カザフスタンが続いていたが、それすら私は認識していなかった。下町のバザール街を歩くと、どの店も自然色の平織りのキリムやカーペットが堆く積まれ、その合間にパキスタン スワット地方の手の込んだ衣装やウズベキスタン ブハラ地方の大柄だが伸び伸びとした刺繍布のスザニ、トルクメニスタンのチューリップを模した精緻な刺繍のコートは裏地に木版更紗までついていたものが並んでいた。目が離せなくなり、7年連続で通うことになった。当時、自国を離れ、自由を求めてアフガニスタンに住み着いた周辺国の人々が持ち込んだ、中央アジアの逸品の宝庫がここにあった。中でも、ここで出会った平織りの毛織物「キリム」は、彼らが普段使いにした、華やかではないが今まで見たことのない素朴なデザインで、日本の和室でも使えそうな親近感があった。ひょっとしたら日本民藝館に展示してもおかしくない普遍性があった。現地ではこのキリムは暮らしに欠かせない、屋内でも野外でも織れる生活に密着した織物で、自家産の羊毛を手で紡ぎ、遊牧中に採集した染料を使って染める、ごく日常の暮らしの中で作られた実用品で、手軽に出来るが耐久性は30年位と聞いた。

 その後、ソ連の侵攻によって束の間の平和が崩れ、私のアフガニスタン行きは1983年にピリオドがうたれた。その後の混乱は今にも引きずられ、かつての遊牧の暮らしは、私たちの視界から消え去ってしまった。しかし、大地と共に暮らしていた彼らの営みは、都市から離れた遠隔の地で今だに続けられていると云う情報を聞き、少しほっとした。


岩立 広子