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第20回 開館10周年特別展「インド 沙漠の民と美(後期)ラージャスターン州 伝統の木版更紗と絞り」

2020年7月30日 - 11月8日

 今回はミュージアム10周年記念を祝い、私の出発点となった「インド 沙漠の民と美」をテーマにした。  インド通いがはじまったころ、グジャラート州カッチ地方の伝統的なアジュラック染の職人、モハマッド氏の案内で私はある村を目指していた。その途中、8台の牛車が陽気な歌声と共に近づいてきた。近くに寄って話を聞くと、移動するラージプートの一団だった。女性のはいている木版更紗のスカートが美しく、どこで手に入れたか尋ねたら、近くの店にあるという。 こんな沙漠の小さな村のなかでも、そのよろず屋には食料や雑貨とともに鮮やかなスカート生地が売られていた。前期の表紙の写真はその時のもの。また、カッチに着くやいなや訪れた、城塞の中にある小さなミュージアムで、極小のミラーを嵌め込んだ刺繍の衣装を見て驚いた。まるで小さなダイヤのような輝きだった。沙漠の奥にどうしてこんな精緻な刺繍があるのか信じられなかった。この時から、ここはただの沙漠じゃないと確信し、足繁く通うことに繋がった。

 後期の表紙は私の木版更紗の目を開眼してくれた、染め職人のナライン師。彼との出会いはジャイプルの城下街の黒くすすけた職人街の一角だった。小柄なネルー帽の彼は通りすがりの訪問者に、脇に積んである出来上がった布を快く丁寧に見せてくれた。彼と会話を続けるうちに、似たような小花にもそれぞれ名前があることや、400年もの歴史が職人たちの手で、細々だがしっかり残っていることを教わった。本当の師匠に出会った瞬間だった。彼の染めた木版染のスカートを私は今も愛用している。使えば使うほどに良さが分かり、文字通り一生使える布である。ある時、ANOKHIの創設者のフェイス氏に彼を紹介すると、伝統的な彼の仕事がファッションの分野に展開され始めた。彼女も、地味だけども奥深いこの木版更紗に魅了された。その後、私自身もジャイプル周辺の様々な染場を回り、色々な木版更紗を集めて回ったが、彼の染めた布が一番地味で渋い。そこには実直な職人の姿勢が裏付けされている。だから飽きることもなく実用としてもファッションとしても通用し、とりわけて美しいと思う。また、ラージャスターン州の州都であるジャイプルの街はピンクシティとも呼ばれ、空の青さは格別、行く度に新鮮で、そういう自然の景色が布に結びついていると深く感じている。

 「沙漠の民と美」とは、単にエキゾチックで珍しいものではなく、いうなれば美の原点。身の回りの限られた資源のなかで、長く使えて、飽きがこない。現代ではとてつもなく難しいことが、彼らの当たり前の世界だった。私の半生を魅了したインドの手仕事が新たなルーツとなってあちこちに根付き、将来の世界の手仕事を牽引する力になってほしい。当館の今後の活動も、同じ方向を向いている。

 岩立広子

 後期は、隣接するラージャスターン州の染織品を展示。州都であるジャイプル近郊には400年の伝統を持つ木版更紗の産地があり、村の暮らしに寄り添うように女性のスカート、被衣、袋、床敷き、壁掛けなどあらゆるものが使われてきました。また、布端から対角線に巻き、糸で括って染めることを繰り返す「ラハリア」や、日本の鹿の子絞りと似た「バンダニ」と呼ばれるインド特有の絞り技法が施されたターバンや被衣も併せて紹介します。